原始キリスト教の心理学

原始キリスト教の心理学

初期キリスト教徒の体験と行動

著者:ゲルト・タイセン / 訳者:大貫隆
本体価格:9,500円(10%税込定価: 10,450円)

サイズ:A5判 862ページ
ISBN:978-4-400-11147-4
発行年月:2008/08/01

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内容紹介

古代地中海世界に産声を上げた弱小な宗教教団。そのメンバーである初期キリスト教徒たちは、どのような心性(メンタリティ)を生きていたのか。新約聖書学の泰斗がいま「歴史的宗教心理学」という新たな方法を駆使し、こころとからだ、霊性と知性、儀礼と倫理等の次元から鮮やかに解明する初期キリスト教の「信」の構造。行為者の生活世界に定位してその意味の解明に迫った、ウェーバーの『古代ユダヤ教』にも比定すべき驚くべき大著であり、新約聖書の読み直しを促す問題作。

【著者について】
Gert Theissen氏は1943年生まれ。1968年に新約聖書のヘブライ書の研究で神学博士号、1972年に奇跡物語の様式史研究で教授資格を取得。ボンのギムナジウムでドイツ語と宗教の教師などを務めた後、1978年にコペンハーゲン大学に招かれる。1980年から2008年までハイデルベルク大学プロテスタント神学部の教授。邦訳されている著書は、『イエス運動の社会学』、『批判的信仰の論拠』、『イエスの影を追って』、『パウロ神学の心理学的側面』、『新約聖書』、『イエス運動』、『聖書から聖餐へ』など。

【訳者について】
大貫隆(おおぬき・たかし)氏は1945年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科西洋古典学専攻修了。ミュンヘン大学にてDr. theol.取得。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。著書に、『世の光イエス――ヨハネによる福音書』、『福音書研究と文学社会学』、『隙間だらけの聖書――愛と想像力の言葉』、『神の国とエゴイズム――イエスの笑いと自然観』、『福音書と伝記文学』、『グノーシス考』、『イエスという経験』、『イエスの時』、『グノーシス「妬み」の政治学』のほか、ナグ・ハマディ文書(全4巻)の共編訳など多数。(08年7月記)

【目次より】
はじめに
序 論  原始キリスト教という宗教の心理学――その問題設定と方法論――
  I. 原始キリスト教の心理学の方法論的限界と可能性
     歴史的宗教心理学はどのように作業するか
  II. 原始キリスト教の心理学の豊富な対象
     歴史的宗教心理学は何を研究するのか
  III. 宗教心理学の理論を求めて

I 魂とからだ
  古代における内的人間の発明と原始キリスト教におけるその革新
 a. 古代における内的人間の発明
   i. 外部霊魂の内面化
   ii. 内部霊魂の一点集中化
   iii. イスラエルにおける人間像の展開
   iv. ギリシアにおける人間像の展開
   v. 穏健宗教的な経験と極限宗教的な経験
 b. 原始キリスト教における内的人間の革新
   i. マタイ福音書における自己力動性:倫理的人間像
   ii. ヨハネ福音書における他者力動性:救済論的人間像
   iii. パウロにおける変容力動性:変容力動的人間像
    1)パウロにおける全体論的人間像
    2)パウロにおける二元論的人間像
   iv. 人間像における無意識
       深層力動の二つの型:罪責の抑圧と自己
    1)パウロにおける深層力動:肉と霊の超越性
    1)『ヘルマスの牧者』における深層力動:抑圧された罪
    2)グノーシスにおける深層力動:忘却された真の自己

II 経験と体験
   宗教としての原始キリスト教における霊性の次元
 a. 原始キリスト教における宗教的経験の総括概念としての「プネウマ」
 b. 宗教的知覚:透視と幻視
   i. 透明になった現実性の宗教的知覚
   ii. 突破経験としての夢見と幻視
 c. 宗教的情動:恐れと喜び
   i. 穏健宗教的な恐れと極限宗教的な恐れ
   ii. 穏健宗教的な喜びと極限宗教的な喜び
 d. 宗教的発語:祈りと異言
   i. 日常言語による祈りと発語
   ii. 極限宗教的な発語:異言
 e. 宗教的変化:回心と改宗
   i. 回心と悔い改め:規範をめぐる決断
   ii. 改宗:実存の方向転換
    1)パウロの神イメージにおける両価性の葛藤
    2)論敵とキリストとに対する関係における葛藤の活性化
    3)キリストとの関係による神との葛藤の意識化
    4)体験と行動の新しい範型による人間の変革
 f. 宗教的結合:ことば信仰と奇跡信仰
   i. 信頼としての信仰:ことばへの信仰
   ii. 力の獲得としての信仰:奇跡信仰

III 神話と知恵
   宗教としての原始キリスト教における認識の次元
 序論:神話と知恵についての理論的考察
 a. 宗教認知論的解釈の主導概念としての「知恵」と「ケリュグマ」
 b. 悪の因果帰属と神義論のアポリア
   救済論の三角形「神・人間・世界」の釣り合い
   i. 初期ユダヤ教文書における悪の因果帰属
   ii. イエスとパウロにおける悪の因果帰属
   iii. 後期新約諸文書の神学における悪の因果帰属
 c. 宗教的アポリアに対する解釈としての神理解
   i. 根本公理としての神信仰:倫理的一神教
   ii. 「神の国」の神話:終末論的一神教
 d. 宗教的アポリアに対する解釈としての世界理解
   i. 知恵の公理としての創造信仰:故郷としての世界
   ii. サタン神話:敵対的な世界
 e. 宗教的アポリアに対する解釈としての人間理解
   i. 罪の赦しの信仰という公理:回心する人間
   ii. 贖罪神話:救われた人間
 f. 宗教的アポリアに対する解答としてのキリスト理解
   i. 反直観的な役割提供としてのキリスト論
 イエスの謙譲に対する解釈:イエスの死の意味づけ
   ii. 穏健宗教的な役割提供を行う副次的登場人物

IV 儀礼と共同体
   宗教としての原始キリスト教における社会的次元
 序論:儀礼と共同体についての理論的考察
 a. キリスト教徒の共同性を主導する概念としての「教会」
 b. 共同体への加入:回心と再生のための洗礼
   i. 心理療法的な回心儀礼としての洗礼
   ii. 変容的な改宗儀礼としての洗礼
 c. 共同体における生:聖なる食事と礼典としての聖餐式
   i. 禁忌違反を伴う礼典としての聖餐式
   ii. 禁忌違反を伴わない聖なる食事としての聖餐式
 d. 共同体における支配:カリスマと職制
   i. 儀礼によるカリスマの事象化
   ii. 教えによるカリスマの事象化
 e. 共同体における生:教会とセクト
   i. 原始キリスト教における教会的な構成
   ii. 原始キリスト教におけるセクト的なグループ

V エートスと実践
  宗教としての原始キリスト教における実践的次元
 序論:エートスの意義についての理論的考察
  a. 聖書のエートスの主導概念としての「愛」
   i. 厳格倫理の立場からの愛の拡張
   ii. 穏健倫理の立場からの愛の限定
 b. 攻撃行動とその克服:原始キリスト教における衝動の制御
   i. エートスにおける攻撃行動の緩和
   ii. ミュートスにおける攻撃性の増進
 c. 性と禁欲:原始キリスト教における衝動の制御
   i. 穏健な性エートスとしての結婚
   ii. 極限的な性エートスとしての禁欲
 d. 律法と勧告:原始キリスト教における規範による方向づけ
   i. 救いの道としての律法:律法の成就
   ii. 禍としての律法:律法の問題性
 e. 良心とさばき:原始キリスト教における規範による方向づけ
   i. 人間の自己判定としての良心
   ii. 神の判決としてのさばき

VI 神秘主義とグノーシス
   宗教としての原始キリスト教がグノーシスにおいて遂げた変容
 序論:宗教性の二つの基本型およびグノーシスの成立をめぐる歴史的条件についての理論的考察
 a. 経験と体験
 b. 神話と教え
 c. 儀礼と共同体
 d. エートスと実践

VII まとめと結びの考察
 a. 魂とからだ:古代における内的人間の発明と原始キリスト教におけるその革新
 b. 経験と体験:宗教としての原始キリスト教における霊性の次元
 c. 神話と知恵:宗教としての原始キリスト教における認識の次元
 d. 儀礼と共同体:宗教としての原始キリスト教の社会的次元
 e. エートスと実践:宗教としての原始キリスト教における実践的次元

  文 献 表
  聖書箇所索引
  訳者あとがき
 

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