福音と世界 2012年7月号
内容紹介
導入
はじめて「社会科学的批評」という言葉を目にする読者もいらっしゃることでしょう。ここで「社会科学」という場合、それはおもに社会学、人類学、心理学、政治学、経済学を指します。そして「社会科学的批評」という場合、それはこれらの学問分野における理論やモデルを聖書釈義に援用する試みを指します。他の批評学と異なり、一つの体系化した方法論があるというのではなく、むしろ既存の社会科学的理論を選択的に聖書解釈に役立てるわけです。たとえばF・ワトソンはマックス・ウェーバーの「体制化理論」を初代教会体制化傾向の枠組みとして用い、C・シュトレカーはヴィクター・ターナーの「境界性理論」をパウロの逆説的神学理解に適用し、わたしは拙著においてアルノール・ヴァン・ジェネップの「通過儀礼理論」をパウロの洗礼定型句を理解する助けとし、またフレデリク・バルトの「アイデンティティ理論」を用いてガラテヤ共同体のアイデンティティ形成を考察しています。そして社会科学的批評はある種の文芸批評とは異なり、その根底において歴史的批評と深くつながっているのです。